散り際の桜吹雪

まず訪れたのは中目黒。実は土曜日、碑文谷公園での花見に向かう途中、中目黒を過ぎたあたりにこぢんまりとした公園があるのを東急東横線の車窓から発見したのです。そこには数本の桜がすごく趣深く桜の花を咲かせているのを見て「ぜひあの公園で写真を撮りたい」と思ったのです。ということで、早速訪れてみたのです。実際その公園に足を踏み入れてみると、何かすごく懐かしいような感じがしました。子どものころ、まだ桜の花の美しさがなんたるかがわかってなかったときに、桜咲き乱れる公園で遊びまくった記憶が呼び起こされるような、そんな感じの公園だったのです。

なんとなくノスタルジックな気持ちにひたりながら、カメラをセットして撮影を始めました。ところが！散りゆく桜を撮影するというのはすごく難しいのです。全くうまくいきません。みなさんも桜の花が散る様子を「目」で見ている限りは、そんなに撮影が難しいなんて思わないと思うのですよ。かくいう僕もそうでした。ところが、桜の花びらというのはすごく小さいのです。まず普通に撮影していたのでは、花びらなのかレンズについた汚れなのかわからないぐらいのレベルなのです。さらに、花びらが散って落ちていく速度というのは意外と早いのです。並大抵のシャッタースピードではまっとうに追えないわけです。しかも、ピントがうまい具合に合わないのです。そんな難条件がそろっているので、そうそう簡単には撮影できないのです。

残念ながらこの公園では花びらが散る様子を撮影することができませんでした。この日は公園での撮影の後に、代官山、恵比寿、渋谷、表参道と歩いて撮影をしてまわる予定だったので、とりあえず数十分粘って公園を去ります。そして次の目的地の代官山を目指す途中、ふとさしかかった目黒川で信じられないような光景を目にしました。一言で言ってしまうと桜の量がハンパじゃないのです。いや、知らないわけではなかったのです。ここ最近、flickrでも目黒川沿いの桜の写真がアップされてるので、桜の名所であることは知っていたのですが、これほどまでにキレイな場所だとは全く想像だにしていなかったのです。このときばかりは写真の無力さを思い知らされました。写真が切り取れるのは現実の世界のほんの一部分だけなのです。それゆえにふとした場所でおもしろい写真を撮影することもできるのですが、現実の世界があまりにも素晴らしいと、どこをどう切り取ったらいいのかヒジョーに悩むのです。

何はともあれ撮影です。端の欄干からカメラを構え、桜が散る様子を狙います。しかしなかなかうまくいきません。そんな感じでしばらくファインダーをのぞいているそのとき！ふと目黒川に沿って突風が吹き抜けていったのです。すると今まではらはらと落ちていた花びらが豪快に巻き上がり、あたり一面桜吹雪に包まれたのです。いやー、壮観な光景でしたよ。さすがの僕もカメラのファインダーから目を離して、すぐ脇を通り過ぎていく桜吹雪に身を任せてました。桜の花が散るのってなんでこんなにも切ない感じがするんでしょうね。昔の人たちが桜が散る様子を見て数多くの和歌を詠んでいますが、そんな人たちの遺伝子が僕ら日本人の遺伝子に深く刻み込まれているとしか思えませんよね。ここ数ヶ月で見た景色の中でも最も素晴らしい光景でした。

そんな光景に見とれつつも、なんとか撮影できたのが今日の写真です。この写真は僕にとってかなり特殊な写真です。というのも、これまでの写真の傾向を見てもらうとなんとなくわかるかもしれませんが、僕はエッジがキンキンに強調されたシャープな写真が好きなのです。なので、ピンぼけや手ぶれの写真なんてもってのほかなのです。ですが！この写真は見ての通りボケボケです。でもいいのです。自分が体験してすごく感動した桜吹雪の様子を少しだけ表現できたのがこの写真だったのです。ちなみにこの写真、完全にボケボケではないのですよ。舞い散る桜の中でたった2枚の花びらにパキッとピントが合ってるんです。

これまで30年間生きてきて、桜吹雪に包まれたのなんて初めての経験です。そのときの感動を少しでも伝えられたらと思って、今日はあえていつもと趣向の違う写真を選んでみました。